プログラムについて

MD研究者育成プログラムに寄せて

医学研究の魅力

医学系研究科長・医学部長 宮園浩平
医学系研究科長・医学部長
宮園浩平

医学研究は基礎研究、臨床研究、社会医学研究に大きく分けることができるが、本プログラムは基礎研究を目指す医学研究者を育成することを主な目的としている。医学研究の最も大きな特徴はヒトを対象とする学問であるということである。もちろん、医学部ではマウスやカエル、ショウジョウバエ、線虫などを用いた研究を多くの研究室で行っているが、医学研究におけるモデル動物を用いた研究は究極的にはヒトの身体の複雑な仕組みの理解や、病気の原因の解明につながることを目的としていると言ってよい。

慢性骨髄性白血病(Chronic myelogenous leukemia;以下CML)という病気がある。この病気は多くは中年以降で発症する。慢性期には血液中の白血球が多くなり、脾臓が腫れるなどの症状があるが、日常生活にはそれほど大きな支障がない場合が多い。しかしCMLのほとんどのケースが数年後に急性白血病へと移行する。通常の急性白血病は現在では抗がん剤による治療が有効なケースも多く、かつてのような不治の病いというわけではない。しかし、CMLから移行した急性白血病は抗がん剤が無効のことが多く、そういう意味ではCMLは急性白血病よりも治療が難しい病気であった。ところが1960年代にフィラデルフィアの研究者によってCMLにおける染色体の異常が発見されたことをきっかけに、その後、染色体の異常の結果起こる遺伝子の異常が見つかり、さらにはその結果できてくる異常なタンパク質の働きが解明され、21世紀になってこのタンパク質の働きを抑える薬が作られるようになった。それまで不治の病であったCMLが医学研究の成果で克服できるようになったわけである。

CMLの研究の歴史を見ると基礎と臨床の双方での研究が重要であることがわかる。CMLという病気の発症のメカニズムの解明は、患者さんと毎日接している臨床医の果たす役割がきわめて大きかったことは言うまでもない。一方で、CMLで見られる異常なタンパク質の研究は、一見、この病気とは関係ないような、細胞内シグナル伝達研究という基礎研究の成果が結実したものである。臨床研究の成果は基礎研究へ、基礎研究の成果は再び臨床研究へ、という両方向のキャッチボールによって、CMLという最も治療の難しいがんの治療が可能となったのである。

このような例はがん研究の分野だけでなく、医学のすべての分野で多数見られる。30年前、私が学生であった頃には原因すら分からなかった病気が、現在では特効薬とも言うべき治療法が解明されたものも多い。もちろん基礎医学研究には疾患と密接に関係したものばかりではなく、生命の神秘に迫るような研究も多い。こうした素晴らしい研究成果を見るたびに医学研究の魅力に興奮を覚えるのは私だけではないと思う。

PhD-MDコースとMD研究者育成プログラム

医学部医学科ではPhD-MDコースも魅力的なコースである。PhD-MDコースは医学部医学科の2年(M2)もしくは3年(M3)を修了後、大学院に入って学位を取得し、その後は医学科に戻ってもよいし、そのまま研究を続けることもできる。PhD-MDコースに参加する学生は医学の勉強をいったん中断することになることから希望者は必ずしも多くなく、学年で1~2名と限られている。しかしこのコースには早いうちから研究を本格的にスタートすることができるメリットがあるので、もし自分がぜひとも研究したいテーマがあればこのコースに進学することを薦めたい。

一方でMD研究者育成プログラムでは学生は医学の勉強を続けながら時間外に研究活動を行うことになる。少人数ゼミナールをはじめとしたコースの他に自由時間を使って研究室で実験を行うことになるので、かなり忙しい毎日を過ごすことになると思う。しかし休学することなく卒業試験、国家試験を受けて医師免許を取得した後、臨床研修を行わないで大学院に入ることで早いうちから研究を開始するという点では魅力あるコースであると思う。

若い時に持った医学に対する興味を大切にし、夢を大きく膨らませるために、ぜひともこのプログラムに多くの学生が参加し、医学研究の魅力に学生時代から存分に触れて、世界をリードする研究者に育っていくことを心から願いたい。

2011年6月